この「論理的な議論の構築方法について」について

連載第1回
 1. ここで目指していること
連載第2回
 2. 「論理的」とは?
  2.1. 命題
  2.2. 推論の方法
連載第3回
 3. 論理を使って考えを整理する
  3.1. 言語事実を命題でおきかえる
  3.2. 議論を作っていく
  3.3. 議論を命題でおきかえる
  3.4. まとめて書いてみる
連載第4回
 4. 結論を真実に近づけていくために
  4.1. 真であると仮定しなければならない前提をへらしていく
  4.2. チェックポイント
連載第5回
 5. 論理的であることと説得的であること

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「論理的な議論の構築方法について」
第3回
3. 論理を使って考えを整理する

 では、命題論理を利用して、自分の分析をよりよいものにしていく方法について述べていく。

3.1. 言語事実を命題でおきかえる

 まず、ここでは命題論理を用いて議論を構築しようとしているのであるから、命題でないものは議論の要素になれない。したがって、すべての議論のどの要素もそれぞれ1つの命題でおきかなければならない。すなわち、言語事実も命題の形で表されなければならないし、それによって組み立てられる議論もまた命題の形で表され、さらに大きな議論が組み立てられなければならない。この作業によって、デ−タや意見が真理値をもつ命題におきかえられ、客観的に思考の流れを整理する準備がととのうことになる。
 言語事実を命題でおきかえる際には、2.1.の(4)(5)の2つの留意点に気をつけなければならない。

(8) 留意点1:「何々について」という形ではなく、「何々がどうだ」という形にする
  (例)「動詞〜の受動態について」
    → 「動詞〜の目的語は受動態の主語になれない。」
(9) 留意点2:真理値がはっきり決まる形にする
  (例)「こういう複雑な構造では、wh-移動ができない。」
    → 「関係節の中からは、wh-移動ができない。」

 言語事実を議論に使えるような命題におきかえるには、何段階か推論をへて別の命題に置き換えなければならないことも多い。

(10)
[デ−タ] *What did you see a girl who was reading?
[命題1 ] この文は容認不可能である。
[前提1 ] この文が容認不可能なのは構文が不適格だからである。
[命題1'] この構文は不適格である。
[前提2 ] whatは[who was reading ___]という位置から文頭へ移動している。
[前提3 ] [who was reading ___]という部分は関係節である。
[前提2'] whatは関係節の中から文頭へ移動している。
[命題1"] whatを関係節の中から文頭へ移動することはできない。

言語事実を命題で表す部分は、特に注意が必要である。言語事実は現象として存在する(ように見える)ため、それを置き換えた命題も絶対的な真であると思いやすいが、そうではない。観察というものは、本質的に主観的なものである。分析の証拠として例文をだす場合、minimal pairを作る場合、例文に対してjudgementをする場合、どんな場合でも完全に「客観的」ということはありえない。現象というものは、そのままでは「見える」ものではなく、観点をもって切り口を作らなければ「見えない」ものなのである。現象そのものは真でも偽でもなく、それを命題の形で表してはじめて真理値をもつ。絶対的に正しい観点というものが存在しない以上、すべての観察には主観が介在することになり、したがって、それを表した命題の真理値も絶対的には定まらないことになる。したがって、どういうことを前提とした見方なのかということを常に意識しておかなければならない。


3.2. 議論を作っていく

 デ−タを命題で置き換えられたら、次にそれらを組み合わせて「議論」を形成していかなければならない。自分の思いついた分析を論理的な議論として提示しようとする場合、難しいのは、わからないのが「結論」ではなくて「前提」の方だということである。どのような前提をたてれば、自分の目指している結論が論理的に導かれるのかということが問題であるから、単純な論理計算のようにはいかない。デ−タが示していることは前提となる命題になりうるが、それだけでは結論は導かれない。

(11)    P
    ────
      Q

(6)の推論のパタ−ンだけを用いて目指している結論を導くためには、前提となる命題の形を都合のいい形に言い換えたり、別の前提をもってきたりすることが必要なのである。たとえば、今の例ならば、次のように別の前提を加えることによって論理的な議論となる。

(12)    if P then Q
         P
     ──────────
         Q (Modus Ponens)

(13)    not P or Q
         P
     ──────────
         Q (Disjunctive Syllogism)

 (12)も(13)も論理的な推論の方法にかなったものである。(12)の方は、よく見ると結論をそのまま前提としたようなもので、このような前提の仕方は手前勝手でよくないと思うかもしれない。しかし、どのような推論にも、必ずいくつかの前提が必要である。「前提」とは「真であると仮定する」ということであるから、そもそもその絶対的な真理値については問題にしていない。したがって、どれだけ恣意的な前提があったとしても、そのこと自体は論理性を低めない。言いかえれば、いくら「主観的」な意見であったとしても、必要な前提事項がすべて明らかにされていれば、それは十分に「客観的」だということである。もちろん、必要な前提事項を見落としてしまっていてはいけない。現実世界を分析対象としている場合には当然であると思われることが多いかもしれないが、それを明示しないまま前提としてしまっては、それこそ自分勝手な思い込みになってしまう。
 Disjunctive Syllogism は、日常の言語でいいかえると次のような議論のパタ−ンとなることが多い。

(14)  [前提1] PであるかQであるかどちらかのはずであるが、
    [前提2] Pではないという証拠がある。
    [ 結論 ] したがって、Qでなければならない。

ここで[前提2]はたいていデ−タをおきかえる命題であるが、[前提1]はいわば「選択肢」を示す命題ということになる。選択肢のたて方は、データをおきかえる命題の表現方法にしたがって決定されるので、必要があれば[前提2]となる命題をちょうどいい形に言い換えることができなければならない。データから選択肢を逆算するというのはずるい方法のように思うかもしれないが、そうではない。上でも述べたように、現在見ているデータは、自分の主観によって切り取った「現実」である。その主観を客観的に表すためには、「このようなデータが見える切り取り方」という表現しかない。データから選択肢を逆算することによって、自分の主観的な観点を客観的に表現していくことになるのである。
 自分の観点を適確に表現することは難しいので、いろいろ言い換えて試行錯誤する必要がある。このような場合、(6)e,f,g の Simplification, Conjunction, Addition を使うと真理値を変えずに別の命題にすることができる。

(15)  (例) 「AとBには共通点がある。」(Addition)
       ←→ 「AはCで、BもCである。」
    (例) 「AとBは同じではない。」(Addition)
       ←→ 「AはCだが、BはDである。」
       ←→ 「AはCだが、BはCではない。」
       ←→ 「AのCとBのCは同じではない。」
    (例) 「AにおいてBはCであるが、DはEである。」(Conjunction)
       ←→ 「AにおいてBはCである。」+「AにおいてDはEである。」(Simplification)
(16) [データ] 「この文における to-phrase は complement である。」
[選択肢] 「この文における to-phrase は (i) complement なのか、(ii) complement ではないのか。」
(17) [データ] 「この構文において、目的語は wh-移動でぬきだせるが、主語はぬきだせない。」
[Addition] 「この構文においては、目的語の wh-移動の条件と主語の wh-移動の条件が異なっている。」
[選択肢] 「目的語の wh-移動の条件と主語の wh-移動の条件は、(i) 同じであるか、(ii) 同じではないか。」
(18) [データ] 「この構文において、目的語は wh-移動でぬきだせるが、主語はぬきだせない。」
[Simplification] 「この構文においては、目的語が wh-移動でぬきだせる。」
[選択肢] 「この構文において、目的語は wh-移動で (i) ぬきだせるか、(ii) ぬきだせないか。」

場合によって、generalな表現が必要となる場合とspecificな表現が必要となる場合があるので、このような言い換えに慣れておくと便利である。

3.3. 議論を命題でおきかえる

 1つの議論ができあがったら、これが次のより大きな議論の構成要素となるので、これも1つの命題におきかえなければならない。ただし、この作業は、今の推論の結論となる命題をとればいいだけであるから非常に単純である。議論をおきかえた命題に対しても (6) の推論の方法は成り立つはずであるから、さらに議論を組み合わせると、より大きな議論が構築される。そして、それもまた命題で置きかえることができるので、この作業は最終的に1つの結論に収束するところまで繰り返されることになる。
 議論と議論を組み合わせる場合に気をつけなければならないのは、それぞれの議論が前提をもっているということである。議論と議論を組み合わせるときには、次の手順にしたがって、前提も組み合わせていかなければならない。

(19) 前提も組み合わせる:
 a. 2つの前提が矛盾する(=絶対同時に成り立たない)ならば、その議論は組み合わせることができない。
 b. 2つの前提がまったく別のものならば、組み合わされた議論は、その2つの前提を両方もつことになる。
 c. 一方の前提がもう一方の前提にふくまれるならば、大きい方の前提が組み合わされた議論の前提となる。

 結論にいたるどの部分も (6) のどれかの型になっていなければならないという条件を満たすことは予想以上に難しい。誰しも結論に関係があると思うからこそ書くのだろうが、「それから、〜ということについても述べておかなければならない。」という関係は (6) の型では表せないので、こういう議論は本文の一部とはなれないことになる。このような議論をどうしても残すとするならば、注に書くしかない。
 理想的には、1つの論文で示そうとすることがいくつもあってはおかしいということも言えるだろう。つまり、もし、すべての議論を使うと2つの結論が導きだされるようであるならば、それらの議論は2つの論文に分割すべきだと言ってもよい。また、結論を導きだすのに必要ではなかった議論は、この論文からは割愛することになる。

3.4. まとめて書いてみる
 上のような手順を経て1つの結論が導きだされたら、その結果をひとまずまとめて書くことができる。それぞれの議論は入れ子構造になっているはずなので、論文全体が1つの結論へと収束していく樹形図となり、各 section が次のように1つ1つの node となるはずである。(HTML では樹形図が表現しにくかったので、表の形で書きました。)

(20)
section 1: Introduction (section 5: Conclusion)
section 2 section 3 section 4
sec 2.1 sec 2.2 sec 2.3 sec 3.1 sec 3.2 sec 3.3 sec 4.1 sec 4.2 sec 4.3
sec 2.3.1 sec 2.3.2 sec 4.1.1 sec 4.1.2
(sec 2.3.1 と sec 2.3.2 が sec 2.3 の結論の根拠となる議論である。)
(sec 2.1, sec 2.2, sec 2.3 が section 2の結論の根拠となる議論である。)
(section 2, section 3, section 4 が全体の結論の根拠となる議論である。)

 また、各 section を次のような構成にすると、全体の論理関係をチェックしやすい。

(21)  はじめの文 = その議論をおきかえる命題
    はじめの段落のその他の文 = その議論の前提とその議論を構成する下位議論とその結びつき方を命題の形で紹介する。

これを全体に適用すると、たとえば次のようになる。

(22) 例: 1. Introduction [論文全体の結論][論文全体の前提][論文全体の目的 etc]
[論文全体の構成]
2. ------
[2.の議論全体の結論][2.で前提となること][この議論が成り立つと全体の結論にどのように結びつくか]
[この議論を成り立たせる議論グループの紹介]
2.1. -----
[2.1.の議論の結論][2.1.で前提となること]
[2.1.の議論をデータから導きだす]
[2.1.の議論の結論][この議論が成り立つと 2.全体の結論にどのように結びつくか]
2.2. -----
.......

つまり、それぞれの議論を置きかえる命題がいわゆる topic sentence となることになる。
 このような形にまとまったら、まず第1段階としての(1)a「論理的に結論を導く」という作業が終わったことになる。この作業が注意深くできていれば、自分の思いつきが客観的に述べられているはずであるから、次にその欠点をさがす段階にはいれることになる。