大学院の受験を考えている人に
 〜九州大学大学院 言語学専攻の入試に関する情報〜

九州大学大学院言語学専攻の入試に関して、メール等でよく聞かれることについて、私の答えを書いておきます。
(※ 以下は、あくまでも上山の私見であり、言語学研究室の公式の見解ではありません。1つの参考意見と思ってください。また、他の専攻にはあてはまらないことが多いかもしれません。)

どんな問題が出るのですか?
 過去の入試問題は、文学部・人文科学府のページからダウンロードすることができます。
 出題傾向は、もちろん変わる可能性もありますが、少なくとも、ここ最近は結構安定していると思います。
競争率はどのぐらいですか?
 原則的に、相対評価で合格者を決めているのではなく、試験の得点が何点以上、提出論文が何点以上、面接が何点以上、という絶対評価で合否が決まります。したがって、受験生が全員出来が良ければ、全員受かることもありえますし、全員勉強が不十分ならば、全員落ちることもありえます。
語学の試験で落ちることもありますか?
 ありえます。
 ただ、以前は外国語が2科目ありましたが、現在は1科目なので、受験生の負担はずっと減ったと思います。言語学では、外国語の種類について、特に制限は設けていませんが、大学院の授業では、英語のテキストを読む機会が非常に多いので、試験対策とは関係なく、英文を速く正確に読む力を養っておいてほしいと思っています。
入学したあとの研究テーマの選択に制限はありますか?
 制限があるかどうかということよりも、自分が九州大学大学院の言語学専攻で何を学びたいかということが肝心だと思います。指導教員の得意な分野であればあるほど、たくさんのことを受けとることができます。大学院は、学部の時よりも深い内容を学ぶところですから、通りいっぺんのことしか学べないテーマを選ぶと自分が損をするでしょう。もちろん、学ぶ前から興味があるかどうかを決めることは難しいので、とりあえず授業を受けてみてから1年ぐらいかけてゆっくりテーマを選んでもよいと思います。
まだ試験に受かるかどうかわからないのに、先生にメールを書いてもよいものでしょうか?
 私は、むしろ積極的に連絡をとるべきだと思っています。
 特に、社会人入試を受験する予定の人や、国外からの留学生の場合、事前に教員と連絡をとって、よく話し合っておくことを勧めます。いろいろ話し合うことによって、この大学院が自分の目的にふさわしい場所であるかどうか、学生さんが判断する材料になるでしょう。もちろん、教員としては、答えられる質問と答えられない質問がありますが、学生さんが情報を集めようとしている姿は、それだけ自分の進路・人生に対して真剣なのだなと(私は)好感をおぼえます。教員側としても、どういうバックグラウンドを持っていて、どういう興味を持っている学生が受験しようとしているのか、知っておきたいものです。合否は、試験他の客観的な得点によって決まりますから、連絡をとることに後ろめたさを感じる必要はないと思います。
過去の試験問題の答えはありますか? どのような勉強をすればいいのでしょうか?
 残念ながら、解答は公表されていません。言語学の基礎的なことを勉強して受験してほしいというのが教員側の願いですが、学生さんにとっては難しいと感じることが多いと聞きます。以下に、私のアドバイスを書いておきます。(重ねて言いますが、私見です。)

 従来、1番は、音韻論の問題になっています。こういう音韻論の練習問題をしたことがない人は、問題を見ただけでめんくらうかもしれませんが、基本的には、データを見比べ、一般性を探して、それを最もすっきりとした規則の形で表現する、という作業が求められています。
 知識を問うというよりも分析能力を問う問題ですが、どういう部分に注目すれば規則としてまとめやすいかは、知識や慣れがないと、制限時間内に解くのが難しいかもしれません。似たような練習問題が載っている音韻論の教科書を探して、根気よく練習していきましょう。たとえば、くろしお出版から出ている『言語の構造-理論と分析-(音声・音韻篇) 』(柴谷方良・影山太郎・田守育啓 1981)は、日本語で読めるので、とっつきやすいと思います。もしかしたら、書店では見つけにくいかもしれませんが、図書館には、たいてい入っているのではないかと思います。出版社に直接問い合わせてみる方法もあるかもしれません。
 大学院生の人に勉強の仕方を聞くのもいいでしょう。今までの印象では、この問題がよくできているのに不合格だった人も、この問題がボロボロだったのに合格した人も、記憶にありません。それだけ、この問題が言語学の基本的な能力を測る問題になっているということだと思います。初めは難しいかもしれませんが、少し練習を積み重ねていけば、必ずできるようになりますので、がんばってください。

 2番はたいてい、英語の長文を読んで、それに関する問題に答える問題です。
 個々の文章は難しいものもありますが、言語学全般もしくは生成文法の考え方の基本的な部分を理解していることが求められています。文章の表面的な言い方に引きずられることなく、自分の理解を的確に表現できるように心がけるべきでしょう。

 最近の3番は、指定された日本語の文の構造を書き、それに説明を添えるという問題です。
 樹形図は、習い覚えたものを描くものではなく、自分の分析を図にして表すものですから、どういう文に対してどういう図を描くかによって、その人が文法をどのように理解しているかがあらわれることになります。「正解」となる図が決まっているわけではありません。文法をどのようにとらえるかに「正解」があらかじめ決まっていないのと同じことです。しかし、一貫した方針に沿っていない場当たり的な樹形図では、文法の意識が低いと言わざるをえません。この問題では、樹形図を描く方針が定まっているかどうか、そして、その方針を明確に表現できるかということが問われます。可能ならば、その分析方針をとる根拠や、それに関する問題点の指摘などが書かれていれば一層の加点となるでしょう。

 4番は、10個程度の専門用語から5つを選んで、その意味を説明するという問題がよく出題されています。
 音韻論・形態論・統語論・意味論・心理言語学・社会言語学・歴史言語学・構造言語学等、広い分野から出題されますので、各種の入門向けの講座・シリーズものを読むなどして、バランスよく知識を身につけることが必要です。類似概念との違いをよくおさえておくことも有用でしょう。例をあげて説明してもかまいませんが、大体、3〜4行ぐらいでポイントが書ける場合がほとんどだと思います。

 1番に一生懸命、取り組んでいる間に、あっというまに時間が経っていて、最後まで出来なかったという感想を時々耳にします。あくまで個人的な意見ですが、私としては、4番→3番→2番→1番の順ですることをお勧めします。4番や3番は、あまり時間をかけないで、しかし、着実に片付け、残りの時間で2番と1番に取り組むという方法です。解答用紙は、1枚目に1番の問題の回答を、2枚目に2番の問題の回答を、3枚目に3番の問題を、4枚目に4番の問題の回答を書くことになっています。間違えても答えが無効になることはありませんが、なるべく留意してもらえると助かります。
九州大学の出身ではないのですが、いったん聴講生などにならないと、大学院の入試は無理でしょうか?
 他大学の出身者でも、そのまま合格した人は何人もいます。ただ、音韻論にしろ、統語論にしろ、独学だと大変かもしれませんね。出身大学でそういう授業を受けていない場合には、いったん研究生として授業を受けながら受験勉強をするほうが効率的である可能性もあるでしょう。ここの言語学研究室は、面倒見のいい院生さんたちが多いので、受験対策の勉強会が開かれることもあると聞いています(もちろんボランティアですので、毎年あるとは限らないかもしれません)。また、研究生として過ごすことによって、本当に自分がここで勉強したいのかどうかを見極めるという考え方もあるでしょう。
 九州大学には、聴講生や研究生という制度がありますので、締め切りや費用など、詳しいことは、文学部の教務課に問い合わせてみてください。
   九州大学貝塚地区事務部
   教務課学生第一係(文学部担当)
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