連載第1回
 この「generalization を目指して」について
 0.きっかけに出会う
 1.目標
連載第2回
 2.思いつきを形にする
 3.反例を見つける
連載第3回
 4.generalization の言い方を吟味する
  4.1. 真偽疑問文/疑問語疑問文
連載第4回
  4.2. 「か」のある疑問文
連載第5回
  4.3. 間接疑問文
 5.まとめ
 6.generalizationの先にあるもの

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「generalization を目指して」
第4回
4.2. 「か」のある疑問文

 そろそろ「(2)のような疑問文」という表現を書きかえたいところである。標準的な「疑問文」には文末に終助詞「か」がついているが、ここで観察している疑問文は「か」のともなわないものなので、次のように表現しておこう。

(23) Generalization 4:
 「か」のない疑問文では、
 (i) 真偽疑問文の場合、文末が「だ/である/であった/です」なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。(ただし、文末が「です」の場合は語彙差・個人差が大きい。)
 (ii) 疑問語疑問文の場合、文末が「である/であった」なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。

このように言いかえると、この generalization の文法内での位置づけが以前のものよりもはっきりしてくる。
 しかし、Generalization 4 を見ると、なぜ、「か」のない疑問文にかぎって話を進めているのかという新しい疑問が生まれてくる。調査の対象を広げすぎるとよくない場合もあるが、この場合は、「か」のともなった疑問文に視野を広げる必要があると思われる。『「か」のない疑問文』という範疇は新規に設定したものであり、「疑問文」全体における位置づけが確立しているとはいえないからである。
 そこで、「か」のある疑問文の場合、文末要素に何らかの制限があるかどうか調べてみる。

(24) 「か」のある真偽疑問文のテスト:
 a. 明日、来るか? [動詞・基本形]
 b. 昨日、来たか? [動詞・ タ形]
 c. 明日、来ますか? [動詞接辞・基本形・ ます]
 d. 昨日、来ましたか? [動詞接辞・ タ形・ ます]
 e. この本、高いか? [イ形容詞・基本形]
 f. この本、高かったか? [イ形容詞・ タ形]
 g. *この部屋、静かだか? [ナ形容詞・基本形・  だ]
 h. この部屋、静かだったか? [ナ形容詞・ タ形・  だ]
 i. *この部屋、静かであるか? [ナ形容詞・基本形・である]
 j. ?この部屋、静かであったか? [ナ形容詞・ タ形・である]
 k. この部屋、静かですか? [ナ形容詞・基本形・ です]
 l. この部屋、静かでしたか? [ナ形容詞・ タ形・ です]
 m. この部屋、静かか? [ナ形容詞・語幹形]
 n. *あの人、フランス人だか? [判定詞・基本形・  だ]
 o. あの人、フランス人だったか? [判定詞・ タ形・  だ]
 p. *あの人、フランス人であるか? [判定詞・基本形・である]
 q. ?あの人、フランス人であったか? [判定詞・ タ形・である]
 r. あの人、フランス人ですか? [判定詞・基本形・ です]
 s. あの人、フランス人でしたか? [判定詞・ タ形・ です]
 t. あの人、フランス人か? [名詞]
 u. *今日、休講なんだか? [助動詞・基本形・  だ]
 v. 今日、休講なんだったか? [助動詞・ タ形・  だ]

疑問語疑問文の場合には、判断に困るものがある。例えば、「いつ来るか?」という文は上昇調のイントネ−ションで読むと容認可能性が低いが、下降調のイントネ−ションで読めば容認可能である。しかし、下降調のイントネ−ションで読んだ場合は自問型にしかならないのに対して、今までの例文はすべて質問型である。したがって、この文は、疑問文としては容認可能であるが、質問型の疑問文としては容認不可能ということになる。ここでは仮に、疑問文として容認可能かどうかを問題にすることとし、自問型としてしか容認できない文には「#」という印をつけておくことにする。

(25) 「か」のある疑問語疑問文のテスト:
 a. #いつ来るか? [動詞・基本形]
 b. #いつ来たか? [動詞・ タ形]
 c. いつ来ますか? [動詞接辞・基本形・ ます]
 d. いつ来ましたか? [動詞接辞・ タ形・ ます]
 e. #どの本が一番高いか? [イ形容詞・基本形]
 f. #どの本が一番高かったか? [イ形容詞・ タ形]
 g. *どこの部屋が静かだか? [ナ形容詞・基本形・  だ]
 h. #どこの部屋が静かだったか? [ナ形容詞・ タ形・  だ]
 i. #どこの部屋が静かであるか? [ナ形容詞・基本形・である]
 j. #どこの部屋が静かであったか? [ナ形容詞・ タ形・である]
 k. どこの部屋が静かですか? [ナ形容詞・基本形・ です]
 l. どこの部屋が静かでしたか? [ナ形容詞・ タ形・ です]
 m. #どこの部屋が静かか? [ナ形容詞・語幹形]
 n. *どの人がフランス人だか? [判定詞・基本形・  だ]
 o. #どの人がフランス人だったか? [判定詞・ タ形・  だ]
 p. #どの人がフランス人であるか? [判定詞・基本形・である]
 q. #どの人がフランス人であったか? [判定詞・ タ形・である]
 r. どの人がフランス人ですか? [判定詞・基本形・ です]
 s. どの人がフランス人でしたか? [判定詞・ タ形・ です]
 t. #どの人がフランス人か? [名詞]
 u. *何時間目が休講なんだか? [助動詞・基本形・  だ]
 v. #何時間目が休講なんだったか? [助動詞・ タ形・  だ]

 「か」のある疑問文と「か」のない疑問文の両方についてまとめると、次のようになる。

(26) Generalization 5:
「か」のある疑問文では、
(i) 真偽疑問文の場合、文末が「だ/である」なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。(ただし、文末が「であった」の場合は現代日本語としては、かなり不自然となる。)
(ii) 疑問語疑問文の場合、文末が「だ」なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。(ただし、普通体の場合は自問型としてしか容認できない。)
「か」のない疑問文では、
(i) 真偽疑問文の場合、文末が「だ/である/であった/です」なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。(ただし、文末が「です」の場合は語彙差・個人差が大きい。)
(ii) 疑問語疑問文の場合、文末が「である/であった」なら容認不可能となり、そうでなければ容認可能となる。