XカラYマデとXカラYニカケテ

言語学4年 瀬真理


1. はじめに

 

(1) a. 今夜から明日の朝まで九州各地で激しい雨が降るでしょう。

b. 今夜から明日の朝にかけて九州各地で激しい雨が降るでしょう。

(2) a. 駅前通りから学校の正門まで色とりどりの花が植えられていた。

b. 駅前通りから学校の正門にかけて色とりどりの花が植えられていた。

 

2. 主張

 

(3) a. XカラYマデは、単に様々な範囲を表す。

b. XカラYニカケテは全体からX〜Yを限定的に抜き出し、X〜Y以外の範囲を除外する性質を持つ。

 

2.1. XカラYニカケテは除外する範囲がなければならない

 

(4) a. 太郎は毎朝駅から学校まで自転車で通学しています。

b. 太郎は毎朝駅から学校にかけて自転車で通学しています。

 

(4b)の場合、駅から学校の範囲だけは自転車で通学しており、駅から学校の範囲以外、つまり家から駅までは徒歩や電車など他の手段を用いていると考えられる。

 

(5) a.太郎は毎朝家から学校まで自転車で通学しています。

b. ??太郎は毎朝家から学校にかけて自転車で通学しています。

 

通常通学は家から学校の範囲であると考えられるため、(5b)のように通学の全範囲をXカラYニカケテで述べると不自然な文となってしまう。


2.2. XカラYマデは、「何でもすべて」という意味を持ちうる

 

(6) a. エアコンがあれば真夏から真冬まで快適に過ごすことができる。

b. エアコンがあれば真夏から真冬にかけて快適に過ごすことができる。

 

(6a)はXに、1年の中での最も暑い時期である真夏を、Yに最も寒い時期である真冬を入れることで「ずっと、一年中」などの意味を持たせている。この場合、真夏や真冬はもちろん春や秋などの時期もこの範囲に含まれる。これに対し(6b)では、秋は含まれるが春は含まれないということになるため(6a)とは異なる解釈である。

 また次の(7)〜(9)のように、XカラYマデは「全て、いつでも、何でも」などの意味を持つことができるがXカラYニカケテは(3)より全体の意味を持つことができない。

 

(7) a. 太郎は引っ越しに関する何からまで手伝ってくれた。

b. ??太郎は引っ越しに関する何からにかけて手伝ってくれた。

(8) a. 太郎は朝からまで部屋でゲームをしていた。

b. ??太郎は朝からにかけて部屋でゲームをしていた。

(9) a. 新しくできたデパートには食品から骨董品までそろっている。

b. ??新しくできたデパートには食品から骨董品にかけてそろっている。

 

しかし、(10),(11)のような前提がある場合、XカラYニカケテは全体からX〜Yを抜き出しX〜Y以外を除外した意味で用いることができる。

 

(10)  (「海水浴に行くために必要なものリスト」の中から)

a. 健一は海水浴に行くために水着からバーベキューセットまで買った。

b. 健一は海水浴に行くために水着からバーベキューセットにかけて買った。

(11)  (柔らかいものから堅いものの順番のなかで)

a. 新発売の包丁は熟したトマトからまで切ることができる。

b. 新発売の包丁は熟したトマトからにかけて切ることができる。

 

2.3. XカラYニカケテの「Xカラ」は省略できない

また(3)より、(12),(13)のようにXを省略することはできない。

 

(12) a. 私たちは飛行機の(出発から)到着までぐっすり眠った。

b. *私たちは飛行機の(出発から)到着にかけてぐっすり眠った。

(13) a. 今日の宿題は(1ページから)114ページまで読んで来ることです。

b. *今日の宿題は(1ページから)114ページにかけて読んで来ることです。

 



参考文献

中村亘(2003)「『〜から〜にかけて』の意味・用法―時間的・空間的範囲への位置づけ―」『十文字学園女子短期大学研究紀要第』34: 1-10.

沼田善子(1986)「とりたて詞」『いわゆる日本語助詞の研究』186-192. 東京: 凡人社.

藪崎淳子(2009)「『格助詞マデ』の副助詞性について」『日本語文法』9(2): 70-87.