日本語の程度をあらわす助詞について
―ホド、クライの意味と用法―

言語学・応用言語学専攻 須川 友美

1. ホドとクライ

(1)  佐々木(1996)による記述:

       ホド:実力を高く評価     クライ:実力を低く評価

(2)  益岡・田窪(1992)による記述:

       ホド:程度の最高範囲    クライ:最低程度の基準点

2. 共通の用法:数量の用法

(3)     あの角を曲がって、あと50m{ほど/くらい}歩けば我が家です。

3. 強調・感嘆のホド

(4)  a.  彼女{ほど/くらい}頭のいい子はいない。

    b.  人前で笑われること{ほど/くらい}恥ずかしいことはない。

ホドが補足成分「彼女」を強める役割をしているのに対して、クライは「彼女と同じくらい頭のいい子」という同程度の意味しかない。

(5)     死ぬ{ほど/*くらい}疲れた。

    cf. 彼は倒れる{ほど/くらい}頑張った。

(6)     今日{ほど/くらい}天気のいい日はない。

(7)     これ{ほど/*くらい}天気のいい日はない。

(8)  a.  これ{ほど/くらい}しっかり歩けるなら、退院しても大丈夫だろう。

    b.  これ{ほど/くらい}寒いと外に出たくなくなるなぁ。

(9)     これ{ほど/くらい}笑ったのは久しぶりだ。

(10)    これ{ほど/*くらい}謝っているのに彼女は許してくれない。

(11) a.  人前で笑われることがこれ{ほど/*くらい}恥ずかしいなんて。

    b.  君がこれ{ほど/*くらい}冷たい人だとは思わなかった。

4. 同程度、軽視のクライ

(12)  ホドには同程度の意味はない

       カッコウはカラス{*ほど/くらい}大きい。

(13)  否定文にすると、「同程度」の意味ではなくなる

       カッコウは鷹{ほど/*くらい}大きくない。

(14)  クライの持つ同程度の意味では状態の進行を表すことができない

       買えば買う{ほど/*くらい}ポイントがたまる。

これは、クライの「同程度」が「大したことはない」という軽視の意味を含んでいることと関係しているだろう。

(15) 軽視のクライ:

    a.  あれくらいの美人はよく見かける。 (→大したことない美人)

        cf. あれほどの美人はなかなかいない。 (→ものすごく美しい人)

    b.  それ{*ほど/くらい}のことしてくれたっていいのに。

    c.  一つ{*ほど/くらい}食べたってわからないよね。

(16)  a.  彼ほどの男がなぜそんなこと言ったんだろう?

    b.  彼くらいの男がなぜそんなこと言ったんだろう?

このように、クライには、「たいしたことない」という軽視の意味があり、この軽視の意味はホドにはない。

5. まとめ

(17)  a.  ホドには、クライにはない強調・感嘆をあらわす意味がある。

    b.  クライには同程度の意味しかなく、その他の程度表現においては使用しがたい。また、軽視をあらわす意味を持つ。

参考文献

益岡隆志・田窪行則(1992)『基礎日本語文法−改訂版−』くろしお出版

森田良行(1989)『基礎日本語辞典』角川書店

芳賀やすし・佐々木瑞枝・門倉正美(1996)『あいまい語辞典』東京堂出版

金水敏・木村英樹・田窪行則(1994)『日本語セルフ・マスターシリーズ4−指示詞−』くろしお出版