いわゆる引用の助詞〜ッテの機能と用法

言語学4年 重松美香


 「〜ッテ」には、いくつかの用法があることが知られているが、これまでの研究における分類は、意味にしか注目していないため、不十分な分類にしかなっていない。本論文では、「〜ッテ」が他のどういう表現で言い換えられるかということに注目して、より適切な分類を提案した。

1. 森重(1954)

(例文は、それぞれ森重 1954の(1b),(1ロ),(2イ),(2ロ),(3イa),(3c),(4イ))

 

(1) a. 引用      「お上手だってほめてたわ。」

b. 伝聞         君は絵の方もやるんだってね。」

c. 反芻的反問     「なんですって?」

d. 反復         「誰かって決まっているよ。」

e. 喚体         「早くしろって。」

f. 「は」         「お姉さまってばだめよ。」

g. 「とは」        「というのは」 「クゥってうちの犬だよ。」

 

2. 三枝(1997)

 

(2)   引用の「〜ッテ」(例文は、それぞれ三枝1997 の(5),(19),(22),(31),(34),(35),(43))

a. 引用          お互いにこれは自分のとうちゃんだ、これはおれの子だって、しんから底から思えばそれが本当の親子なのさ

b. 反復          おれが松田さんをへこましたって、冗談じゃあねぇ

c. 話題の引き込み   剛さんって、結婚にどんな夢とか希望を持ってらっしゃるんですか。

d. 伝聞          この八重歯は抜けるんですって、はたちになれば抜けるんですって

e. 言いつけ       それから自分の部屋だけでもいいから、ちゃんと掃除するように、だって

f. 問い返し        猫かもしれないね」「猫だって?」

g. 訴えかけ       よせったら

 

(3)   逆接の「〜ッテ」(例文は、それぞれ三枝1997 の(47),(63),(67))

a. 逆接         こわれたラジオじゃあるまいし、叩いたって音はでないって

b. 主題の添加     台所でゴキブリを見つければ、私だってたたいて殺すし、ハエが飛び回れば外に出すか捕まえて殺す。

c. 反発         文科をやってゆくには貧民階級の生活を知ることが第一なのよ、だってさ、貧民階級のほかに人権問題を全滅する道はないじゃないのよ

 

3. 本論文の提案

用法 言い換え 引用文の形 後続する形 例文
引用 直接引用 〜ト 体言・用言 動詞 (1a),(2e),(4)
伝聞 〜ラシイ 用言 文末 (1b),(2d),(5)
問い返し 〜トハ、〜ト 体言・用言 動詞、文末 (1c),(2f),(6)
心中表出 〜ト、〜ヨ 用言 動詞、文末 (1e),(2a),(2g),(7),(8)
主題 〜ハ 体言 動詞、補語にあたる述部 (1d),(1g),(2c), (9)
〜トハ 用言多い (2b)
〜トイウ 用言多い 体言 (10)
逆接 〜テモ 用言 (11),(3a)
〜デモ 体言 (12)

※ 「〜ッテ」文とみなすべきでないもの:(1f), (3b), (3c)

 

(4)   幼馴染の近所のお兄ちゃんには大きな夢があるんだ{って/と}聞いた。

(5)   このチョコレート、今年爆発的に売れた{って/らしい}。

(6)   「ちゃんとダイエットしようと思ったんだけど〜今お正月だしね」

    「正月だから食べていい{って/と}?」

(7)   お父さん、私のこといつまでも子どもだ{って/と}思わないで。

(8)   いつまでも親に甘えたらだめだ{って/よ}!

(9)   5年前から使っているこの扇風機{って/は}どこで買ったの?

(10)  下田君が転校する{って/という}噂本当?

(11)  世界中のどんな宝石を集め{たって/ても}、結局君は満足しないと思う。

(12)  これがかの有名なマリー・アントワネットが座った椅子{ったって/でも}、今見て彼女がいるわけじゃないのにね。

 

 森重(1954)の分類には、逆接の用法が含まれていないため、(11)のような例が説明できない。

 三枝(1997)は、(2c)「話題の引き込み」や(2b)「反復」を「引用」の一種としているが、「引用」の意味から考えても、この分類は適切ではない。



参考文献

森重敏(1954)「「て、って」「てば、ってば」「たら、ったら」について」『国語国文』23-11.京都:京都大学国文学会

三枝令子(1997)「「って」の体系」『言語文化』34: 21-38. 東京: 一橋大学