「〜かわりに」の意味と用法

言語学・応用言語学専攻 長野 彰子


1. はじめに

(1)  a. [A 手を洗う] かわりに [B 足を洗う]。  (not A but B)
   b. この街は [A 静かで落ち着いている] かわりに [B 交通の便がやや悪い]。  (A and B)
   c. [A 給料が安いと愚痴をこぼす] かわりに [B 仕事があって良かったと感謝する]。  ((i) not A but B, (ii) A and B)


(2)  目標 :
     「〜かわりに」の使われ方の違いを明らかにする。



2.文法的にどちらかの解釈しかできない場合

2.1.「A and B」の解釈ができない場合

(3)    「名詞」+「の」+「かわりに」 :
       [A 山田さんの] かわりに [B 佐藤さん] が カレーを食べる。(* A and B)

(4)  a. 「形容詞」+「かわりに」 :
       [A 嬉しい] かわりに [B 複雑な心境だ]。(ok A and B)

   b. 「形容動詞(の連体形)」+「かわりに」 :
       あの人は [A 素直な] かわりに [B 几帳面だね]。(ok A and B)

   c. 「動詞」+「かわりに」 :
       [A 遊ぶ] かわりに [B 努力する]。(ok A and B)


2.2.「not A but B」の解釈ができない場合

(5)    [A 夜食を [(過去形) 食べた]] かわりに [B 勉強をした]。   (* not A but B)
   cf. [A 夜食を [(現在形) 食べる]] かわりに [B 勉強をした]。   (ok not A but B)

(6)    昨日購入した、組み立て式家具は [A (過去形) 軽かった] かわりに [B 複雑だ]。    (* not A but B)
   cf. 昨日購入した、組み立て式家具は [A (現在形) 軽い] かわりに [B 複雑だ]。       (ok not A but B)



3.文脈によって選好性が変わる場合

(7)  上記以外の場合には、原則的に、どちらの解釈も可能である。しかし、AとBのどちらかが「プラス」で
    どちらかが「マイナス」の状況であると捉えて、A、B併せて「つりあい」がとれている状況を思い浮か
    べた場合には、「A and B」の解釈になる。

(8)  a. [A 血のにじむような努力をする] かわりに [B 第一希望の高校に入学できた]。  (ok A and B; *not A but B)
   b. この店の商品は [A 質がいい] かわりに [B 高い]だろう。  (ok A and B; *not A but B)

(9)  a. [Aコンサートに行く] かわりに [B夕食を我慢した]。
   b. [Aコンサートに行く] かわりに [Bケーキを食べた]。
   c. [A(私が)幸せになる] かわりに [B(あなたも)幸せになる]。

(10) a.  [A 日直の仕事をする] かわりに [B 掃除を任された]。
   cf. [A 日直の仕事をする] かわりに [B 掃除を免除された]。
   b.  川田さんは[A 面白い] かわりに [B 何事にも正直だ]。
   cf. 川田さんは[A 面白い] かわりに [B 人間性が疑われる]。


 同じ動作主にプラスの出来事とマイナスの出来事が起きたと考えるよりは、違う動作主に起こった方が考え易い。

(11) a. 私は[A りんごを食べる] かわりに [B みかんを食べる]。
   b. [A 私がりんごを食べる] かわりに [B 彼はみかんを食べる]。


 AとBに対比を感じやすくすると「A and B」の解釈がしやすくなる。

(12) a. [A ウォーキングする] かわりに [B ご飯をしっかり食べる]。      (ok A and B; ok not A but B)
   b. [A 朝、ウォーキングする] かわりに [B 夜、ご飯をしっかり食べる]。 (ok A and B; * not A but B)



参考文献

泉原省二(2007)「主題/対比」 『日本語類義表現使い分け辞典』: 140-149. 東京:研究社.

佐久間まゆみ(1990)「接続表現(1)」 『ケーススタディ 日本語の文章・談話』:12-23. 東京:桜楓社.

水谷信子(1985)「接続に関する比較」 『日英比較 話しことばの文法』:159-166. 東京:くろしお出版.

楊凱栄(1995)「「かわりに」、「そのかわり」について」 仁田義雄(編) 『複文の研究 (下)』:421-438. 東京:くろしお出版.